
「NIST準拠データ消去」「DoD準拠」——データ消去業者のウェブサイトや提案書で、こうした用語をよく目にします。「規格に準拠」と書かれていれば安心感がありますが、実際にどんな基準なのか、ご存知でしょうか?
NIST(米国国立標準技術研究所)やDoD(米国国防総省)が定めるデータ消去規格は、世界のデータ消去業界の事実上の標準として認知されています。日本企業も、ISMS監査や個人情報保護法対応で、これらの規格を意識した消去が求められるようになってきました。
NIST(National Institute of Standards and Technology)は、米国国立標準技術研究所。商務省管轄の連邦政府機関で、測定・標準・技術の研究開発を行っています。NISTは情報セキュリティの分野でも世界をリードしており、「NIST SP(Special Publication)」と呼ばれる特別出版物を多数発行。代表的なNIST SP:NIST SP 800-53(連邦政府情報システムのセキュリティ管理策)、NIST SP 800-171(非機密重要情報の保護)、NIST SP 800-88(データ消去ガイドライン)。
NIST SP 800-88(Guidelines for Media Sanitization)は、データ消去に関するガイドライン。2006年に初版、2014年にRev.1、2025年9月にRev.2が発行されました(Rev.1は置き換え)。Rev.2は組織としての消去の仕組みづくりに重点を移し、具体的な消去手順はIEEE 2883などの規格に従う形になっています。NIST SP 800-88では、データ消去(Sanitization)を3つのレベルに分類(Rev.2でも同じ):
利用者が読み書きできる全領域を上書きして消す水準。HDDなら全領域への1回以上の上書きが代表例で、一般的な復元ソフトでは復元できない。ファイルの削除・ゴミ箱を空にする・クイックフォーマットはClearに当たらない(データそのものが残るため)。用途:社内での機器再利用、一般的な紛失・盗難対策。
ソフトウェア消去または物理的手段で、フォレンジック解析でも復元困難なレベル。手法例:記録媒体自身の消去コマンド(ATA Secure Erase・Sanitize)、暗号化消去、デガウサー(磁気消去・HDDのみ)。用途:中古販売・譲渡、機密度の高いデータを扱った機器。
物理的に記憶装置を破壊して、再利用不可能にする。手法例:油圧プレスで圧縮破断、シュレッダーで粉砕、焼却・溶解。用途:国家機密・最高機密、故障HDD/SSDの確実な処分、金融・医療・公的機関。
DoD(Department of Defense)5220.22-Mは、米国国防総省の「国家産業セキュリティプログラム運用マニュアル」。データ消去に関する記述があり、特に「3回上書き」が有名。
伝統的なDoD 5220.22-M (1985〜2006年版) では、以下の3回上書きが推奨:1回目:全ビットを 0 で上書き、2回目:全ビットを 1 で上書き、3回目:ランダムデータで上書き。
NIST SP 800-88 Rev.1(2014年)で、「現代のHDDでは1回の上書きで十分」という考え方が示されました。Rev.2では、DoD方式のような多重上書きはSSDなどでは効果が薄いとして避けるよう書かれています。技術的には、磁気記録の密度が高い現代のHDDでは、上書きされたデータをフォレンジックで読み出すことは事実上不可能。3回上書きは過剰品質、というのが現代の見解。ただし、業界慣習として「DoD準拠」「3回上書き」が信頼の指標として残っています。
日本の個人情報保護法や ISMS(ISO/IEC 27001)には、具体的な消去方法の指定がありません。「適切な方法で消去」と書かれているだけ。そのため、日本のデータ消去業者は、NIST や DoD といった米国の規格に準拠することで、第三者からの信頼性を担保しています。
どの規格に準拠しているか(NIST SP 800-88 / DoD 5220.22-M 等)、使用ソフトウェア(Blancco、DBAN等)、証明書への記載(規格名・準拠レベル)、物理破壊オプションの有無。
ステップ1:消去レベルの決定:再利用ならClear or Purge、廃棄ならPurge or Destroy。
ステップ2:消去手法の選択:HDDのClear(全領域1回以上の上書き)、HDDのPurge(ATA Secure Erase・Sanitize)、HDDのDestroy(物理破壊)、SSDのPurge(ATA Secure Erase or 暗号化消去)、SSDのDestroy(NANDチップ破壊)、USB・SDカードのDestroy(最も確実)。
ステップ3:消去実施:選択した手法で消去を実施。消去前後の状態を記録。
ステップ4:検証:消去後、全領域(または抽出した一部)を読み出し、データが残っていないことを確認。
ステップ5:証明書発行:機器情報、消去方法(NIST SP 800-88準拠・Purge等)、使用ソフトウェア、実施日時、担当者を記載。
NIST SP 800-88 Rev.1 には、SSDに関する特別な記述がありました(Rev.2では、手順の細部はIEEE 2883などに委ねられています)。SSDのClear:通常のソフトウェア消去では、ウェアレベリングの影響で予備領域にデータが残る可能性があり、Clearレベルとしては不確実。SSDのPurge:ATA Secure Erase or Cryptographic Erase(暗号化キー破棄)が推奨。SSDのDestroy:物理破壊(NANDメモリチップを物理的に破壊)。
対応規格:NIST SP 800-88 準拠(HDDは全領域の上書き+検証、SSDはSSD自身の消去コマンド)、HDDはご希望によりDoD 5220.22-M 方式(3回上書き)、Clear / Purge / Destroy 各レベル対応。証明書には準拠規格を明記します。ISMS監査・個人情報保護法対応の証跡として活用いただけます。
業者選定の際は:NIST SP 800-88 または DoD 5220.22-M 準拠を明記、使用ソフトウェアを公開、証明書に準拠規格を記載、物理破壊オプションあり。データ消去という見えない作業だからこそ、規格への準拠が信頼の証となります。
この記事の著者
芦原 陽右BULLCOM 代表
兵庫県公安委員会許可 第631500200039号。神戸・明石でパソコン・IT機器の無料回収・データ消去サービスを提供。 2002年創業のITコンサルティング会社を運営し、個人から法人まで年間多数の機器を適正処理。
会社概要を見る →